遺言書の効力はどう決まる?法的に有効な3種類の書き方を解説
- 遺言の効力は、原則として遺言者が亡くなった時から発生する(民法第985条)。
- 遺言ができるのは満15歳以上の人に限られる(民法第961条)。
- 自筆証書遺言は全文・日付・氏名の自書と押印がそろわないと無効になる(民法第968条)。
- 公正証書遺言は公証人が作るため、形式不備で無効になるリスクが最も低い。
- 遺留分を侵害する遺言でも、それだけで遺言全体が無効になるわけではない。
遺言書の効力の結論

遺言書の効力は、原則として遺言者が死亡した時から生じます(民法第985条第1項)。
つまり、書いた瞬間に何かが動くわけではありません。本人が生きている間は、何度でも書き直せます。
ただし、停止条件付きの遺言だけは別です。「孫が大学に合格したら渡す」のような条件をつけた場合、その条件が死亡後に成就した時から効力が生じます(同条第2項)。
私が実務で一番強調するのは、効力以前の「有効か無効か」です。死亡時に効力が生じる前提として、その遺言書が法律のルールどおりに作られていなければなりません。ここでつまずく人が、本当に多い。
目次
この記事では、効力が認められる遺言書の種類から、効力が及ぶ内容、そして「従わなくてもよいケース」までを、行政書士の実務目線で整理します。
- 法的に効力が認められる遺言書とは?
- 自筆で書かれた遺言書は無効になるケースが多い
- 法的に効力が認められる遺言の内容とは?
- よくある質問
1、法的に効力が認められる遺言書とは?
法的に効力が認められる遺言書は、主に「公正証書遺言」「秘密証書遺言」「自筆証書遺言」の3種類です。
どれを選んでも法律上の効力は同じですが、無効になりにくさ・費用・手間が大きく違います。
前提として、遺言ができるのは満15歳以上の人です(民法第961条)。未成年でも15歳に達していれば、一人で有効な遺言を作れます。これは意外と知られていません。
| 種類 | 作成方法 | 証人 | 無効リスク |
|---|---|---|---|
| 公正証書遺言 | 公証人が作成する公文書 | 2人以上必要 | 低い |
| 秘密証書遺言 | 本人が作成し公証役場で存在を証明 | 2人以上必要 | 中 |
| 自筆証書遺言 | 本人が全文を自書 | 不要 | 高い |
正直に言うと、確実さを最優先するなら私は公正証書遺言を勧めます。費用はかかりますが、後でもめる確率が段違いに下がります。
(1)公正証書遺言とは

公正証書遺言とは、公証人が本人から内容を聞き取って作成する、公文書による遺言です(民法第969条)。
作成には証人2人以上の立会いが必要です(同条第1号)。本人が口で伝えた内容を公証人が文章にし、本人と証人が確認して署名押印します。
原本は公証役場に保管されるため、紛失も改ざんもまずありません。家庭裁判所での検認も不要です。
手数料は、相続させる財産の価額に応じて決まります。具体的な金額は日本公証人連合会の手数料表で確認できます。財産が多ければ手数料も上がる仕組みです。
私の実務感覚では、字を書くのがつらくなった高齢の方や、相続人同士の関係が複雑な家庭には、迷わずこれを提案します。
(2)秘密証書遺言とは
秘密証書遺言とは、遺言の内容を誰にも見せずに、その遺言書が存在することだけを公証役場で証明してもらう方式です(民法第970条)。
中身を秘密にできるのが最大の特徴です。本人が作成・署名押印した遺言書を封筒に入れて封印し、公証人と証人2人の前に提出します。
ただし、公証人は中身をチェックしません。だから書き方に不備があれば、結局は無効になります。秘密は守れても、有効性は保証されない。
正直なところ、実務で秘密証書遺言を選ぶ人はごくわずかです。私自身、12年で扱った件数はほんの数件。中途半端になりやすく、積極的には勧めていません。
(3)自筆証書遺言とは
自筆証書遺言とは、本人が全文・日付・氏名を自分の手で書き、押印して作成する遺言です(民法第968条第1項)。
費用がかからず、いつでも一人で作れるのが魅力です。紙とペンと印鑑があれば、今日からでも書けます。
2019年の法改正で、財産目録だけはパソコンで作ったり通帳のコピーを添付したりできるようになりました。ただし、目録の各ページに署名と押印が必要です(同条第2項)。
さらに2020年7月10日からは、法務局が自筆証書遺言を預かる「自筆証書遺言書保管制度」が始まりました。法務局が原本と画像データを保管するため、紛失・盗難・改ざんのリスクを減らせます。
2、自筆で書かれた遺言書は無効になるケースが多い

自筆証書遺言は、形式や能力の要件を満たさないと無効になります。実際、私が相談を受ける無効トラブルの大半はこの自筆タイプです。
無効になる典型的なパターンを、現場でよく見る順に並べます。
| ケース | なぜ無効になるか |
|---|---|
| 日付が「吉日」など特定できない | 日付の自書が要件のため(民法第968条) |
| 全文をパソコンで作成した | 本文は自書が必要(財産目録を除く) |
| 押印がない | 押印が要件のため |
| 夫婦が1通に連名で書いた | 共同での遺言は禁止されている |
| 訂正の方法がルール違反 | 定められた方式での訂正が必要 |
| 認知症などで遺言能力がない | 遺言時に判断能力が必要 |
| 証人になれない人が証人になった | 推定相続人などは証人になれない |
| 公序良俗に反する内容 | 内容が法に反すると無効 |
| 錯誤・詐欺・強迫による作成 | 本人の真意でないため |
| 古い日付の遺言が残っていた | 最新の日付のものが優先される |
特に多いのが「日付」と「押印」の抜けです。たった一文字、たった一押しの差で、ご本人の意思が全部ひっくり返る。これを見るたびに、私は本当にやりきれない気持ちになります。
もう一つ補足すると、勝手な訂正も危険です。書き間違えたら、消して書き直すのではなく、最初から書き直すほうが安全です。
3、法的に効力が認められる遺言の内容とは?
遺言で法的な効力を持つのは、法律が「遺言で定められる」と認めた事項に限られます。
これを遺言事項と呼びます。大きく分けると、財産に関すること、身分に関すること、遺言の執行に関すること、の3つです。
逆に言えば、「家族仲良く」「介護に感謝している」といったメッセージには法的な効力がありません。書いても無駄ではありませんが、それで何かを強制することはできない。
(1)財産に関する遺言事項
財産に関する遺言事項とは、誰にどの財産を渡すかを定めるもので、遺言の中心です。
代表的なのは、特定の人に財産を譲る「遺贈」、各相続人の取り分を指定する「相続分の指定」、誰が何を相続するかを決める「遺産分割方法の指定」です。
内縁のパートナーや、お世話になった知人など、法定相続人ではない人に財産を残せるのも遺贈の力です。これは遺言でしかできません。
(2)身分に関する遺言事項

身分に関する遺言事項とは、子の認知や未成年後見人の指定など、家族の身分関係を定めるものです。
たとえば、婚姻関係にない相手との間の子を遺言で認知することができます。生前に言い出しにくかった事情がある方が、遺言で初めて認知するケースを私も扱ったことがあります。
未成年の子を残して亡くなる場合に、後見人を指定しておくこともできます。残された子のための、最後の備えです。
(3)遺言の執行に関する遺言事項
遺言の執行に関する事項とは、遺言の内容を実際に実現する「遺言執行者」を指定することなどです。
遺言執行者は、遺言によって指定できます(民法第1006条以下)。指定された人が、預金の解約や不動産の名義変更などを進めます。
執行者を決めておくと、相続人全員の押印を集めて回る手間が大きく減ります。子どもの認知のように、執行者が必ず必要になる手続もあります。
私の経験上、もめそうな相続ほど、中立な第三者を執行者にしておくと話が早い。ここはケチらないほうがいい部分です。
よくある質問
遺言書の効力について、相談現場でよく聞かれる質問にまとめて答えます。
よくある質問
最後に一言。迷ったら、自己流で書く前に一度専門家に下書きを見せてください。無効になってからでは、本人はもう直せません。私が一番防ぎたいのは、その「取り返しのつかなさ」です。
